相続財産がプラスかマイナスか分からない場合、どうすればよい?
熟慮期間を伸長して、相続財産の調査をすることが考えられます
相続人は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に、相続について、承認するか放棄するかの選択を迫られます(民法915条1項本文)。もっとも、この期間(熟慮期間)は、家庭裁判所において伸長することが認められています(同条項但書)。
そのため、相続財産がプラスかマイナスか不明な場合は、熟慮期間を伸長し、相続財産の調査(民法915条2項)を尽くすことで、プラスかマイナスかを明らかにすることが合理的です。
熟慮期間内であれば、プラス財産の限度で責任を負うという限定承認を選択できます
限定承認とは、相続財産のうちプラス財産の限度でマイナス財産の弁済を行い、プラス財産に余剰が出れば(プラス財産>マイナス財産の場合)余剰分を承継し、プラス財産で賄いきれなければ(プラス財産<マイナス財産の場合)マイナス超過部分については責任を負わない、という相続方法のことです(民法922条)。
熟慮期間内(原則として相続開始後3か月以内)であれば、限定承認を選択することができますので、相続財産の調査を尽くしてもプラスかマイナスか判然としないような場合は、限定承認を選択されることをお勧めします。
複雑な手続き
合理的に思える限定承認ですが、現実にはほとんど利用されることはありません(平成27年度の利用件数 相続放棄:189,381件 限定承認:759件)。その理由は、以下の複雑な手続きにあります。
〇自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述すること(民法915条1項本文)
〇限定承認の申述は相続人全員で行うこと(民法923条)
〇財産目録を作成すること(民法924条)
〇故人の債権者や受遺者(遺贈を受ける人)に対して、「限定承認をしたこと」および「一定期間内に請求の申し出を行うこと」を官報に公告すること(民法927条1項)
〇相続人の方で把握している債権者や受遺者に対しては、個別に申し出の催告を行うこと(民法927条3項)
〇故人の債権者の債権額を確定し、債権額の割合に応じて弁済すること(民法929条本文)
〇受遺者への弁済は故人の債権者への弁済を行った後に行うこと(民法931条)
〇弁済のために相続財産を売却する必要があるときは競売に付すこと(民法932条)
〇催告/弁済の手続きを怠ったために生じた損害について賠償責任を負うこと(民法934条1項)
〇譲渡所得課税が生じること(所得税法59条1項1号 相続税とは別に所得税を負担する)
【限定承認の申述】
申述人 | 相続人全員 共同相続人のうち相続放棄をした者があるときは残った相続人全員 |
---|---|
申述時期 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(熟慮期間) ただし、相続人の中に熟慮期間を経過している者がいても、他の相続人が熟慮期間内であれば、共同相続人全員で限定承認することができる |
申述先 | 故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所 |
必要書類 |
・相続の限定承認申述書 |
申述費用 |
・申述人1人当たり収入印紙800円 |
参照記事
遺言書に関する疑問は「遺言書Q&A」をご覧ください。
相続に関する疑問は「相続Q&A」をご覧ください。
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